【弁護士が教える、争わない交渉術#2】納得させてはいけない~争わない交渉術の基本姿勢~
▼前回の振り返りです。
①交渉とは、
双方の望むものが違うけれど、自分の望むものを得たいという前提の下で、相手と取り決めるために話し合うこと。
②「争わない交渉術」とは、
争わずに望むものを得ることを目指す交渉術。
▼交渉は相手の納得を得て初めて成立するわけですが、
相手の納得を得るためのアプローチには2種類あります。
①相手を納得させる型(説得型)
②相手の納得を引き出す型(引き出す型)
▼出口は両方とも納得なので同じに見えますが、180度違います。
✔説得型は、争いになりやすい上に、望むものを得にくい。
✔引き出す型は、争いになりにくい上に、望むものを得やすい。
そうご理解ください。
▼この「型」の違いは、交渉に臨む基本姿勢の違いです。
基本姿勢がマスターできれば、各論は自然と体現・応用できます。
基本姿勢をマスターしないまま各論を使うと、誤った使い方になります。
▼①説得型は、モグラ叩きのイメージです。
相手の意見や反論を叩いて、叩いて、出ないようにします。
出れば出るほど強く叩きます。
▼②引き出す型は、芽を育てるイメージです。
相手の心に種を蒔いて、それが育つのを待ちます。
せっかく出てきた芽を摘んではいけません。
早く育つように急かしてはいけません。
だけど、適切なタイミングと方法で、適切なものを与える必要があります。
その結果、相手が、自分の意志で花を咲かせます。
▼イメージしていただけたでしょうか?
僕が勧めるのは、もちろん②です。
▼交渉がうまくいかない人は、①をやりがちです。
▼なぜ①だとうまくいかないのか?
それは、人は、他者から「させられる」ことを嫌うからです。
仕事をさせられる/家事をさせられる/勉強をさせられる
どれも、良い気はしませんよね?
▼それにも関わらず納得「させよう」としたら、何が起こるか?
反発です。
人は「させられる」ことを嫌いますから、当然反発します。
反発に対して、更に強い力で納得させようとする。
それに対して更に反発する。
▼反発と説得を繰り返して行き着く結末には2通りあります。
【結末①】相手が力負けして、表面上は合意が成立する結末。
渋々納得したり、論破されて戦闘不能になって、一応合意は成立します。
上司が、「いいから、やれ!俺に逆らうつもりか?」と言うのは前者の類。
立場上は逆らえない部下は仕事をしますから、表面上は「仕事をする」という合意が成立します。
【結末②】交渉決裂&関係悪化。
交渉が成立しない上に、散々争ってしまったので、関係修復は簡単ではありません。
▼このように、①説得型は、
交渉が成立しても・しなくても争いになり、火種を残す結末となります。
▼では、②引き出す型はどうか?
▼そもそも、納得「させよう」としませんから、反発を招く可能性が低い。
反発されないということは、争いになりにくいということです。
納得「させる」代わりに、相手が自発的に納得するように適切な対応をします。
この「適切な対応」に当たるのが、争わない交渉術の中身です。
▼今回は、①と②の違いをご理解いただくために1つ事例を挙げます。
部下に仕事を指示する場面です。
▼①説得型
上司「これ、明日までにやっておいて」
部下「いや、今手一杯なので、厳しいです」
上司「部下は上司の指示に従うものだぞ。だいたい、朝も定時ギリギリだし、ちゃんと仕事する気あるのか?いいからやりなさい。」
部下「わかりましたよ」(あぁ、ほんと腹立つわ。なんなんあの偉そうな言い方!)
部下は力負けして(力というのは、この場合は立場という力ですね。)、表面上は合意が成立します。
だから、頼まれた仕事はやります。
だけど、腹の中は全然違いますね。
今回の交渉自体は成立しましたが、将来に火種を残すやりかたです。
▼②引き出す型
上司「これ、明日までにやっておいて」
部下「いや、今手一杯なので、厳しいです」
上司「そうか、いつ頃だったらできそうかな?」
部下「そうですね、3日あればやれます」
上司「そうかそうか、じゃあ、少し待ってもらえるように先方には僕から話しておくから、なんとか3日後までに頼むね。君はいつも仕事が速くて正確だから、お客さんの評判も良いし、助かってるよ。」
部下「はい、ありがとうございます。頑張ります!」
▼①も②も、部下は「結論的には」納得しています。
ここでいう納得は、100%スッキリ納得という意味ではなく、「承諾している」という意味合いです。
だけど、納得の質が全然違いますね。
▼②引き出す型では、
部下自ら「3日あればやれます」と意志表示しています。
つまり上司は、やりますと「言わせた」のではなく、「引き出した」のです。
▼さらに今回の②のパターンでは、
納得を引き出すという基本姿勢の上で、
2つの争わない交渉術を使っています。
①上司は、「自ら先方に掛け合っておく」と言いました。
これによって、上司と部下は敵対関係にあるのではなく、上司は部下の協力者であると示すことができました。
当然ながら人は、敵対する相手には反発し、協力者には好意を抱きます。
協力者であることを示すことで、交渉をスムーズにしました。
②上司は、「君はいつも仕事が速くて正確だから、助かってるよ。」と言いました。
これはラベリング・テクニックといって、相手に対して、ある一定の特徴や態度に関してラベルを貼り、相手にそのとおりに振る舞うことを促すテクニックです。
こう言われると、「速くて正確に仕事をしよう」と思いますよね。
場合によっては、3日どころか1日で仕事を仕上げてくれるかもしれません。
▼納得させるのも、納得を引き出すのも、出口は「納得」で同じです。
だけど、納得させられた時のことを思い出して下さい。
やはり、気持ちの良いものではないですよね。
納得させるのは、「今回」争いを生む可能性が高いのです。
たとえ今回争いにならなかったとしても、「将来」争いを生む可能性が高いのです。
▼こうやって二つ並べると、説得型の交渉がいかに不合理か分かります。
だけど、現実にはこれと同じ、あるいは近いことをやっている人は少なくありません。
あなたの周りには、いませんか?
▼今日のまとめです。
あなたが望むものを得るためには、絶対に納得させようとしてはいけません。
争わずに自分が望むものを得るためには、決して納得させず、納得を引き出して下さい。
これは、騙すというのとは全く違います。
騙すのは、相手の意志をねじまげています。
つまり、意志を決める過程に、不当な介入があります。
▼次回以降も、争わない交渉術をご紹介します。
前回の記事を見て、早速何人かの方からメッセージを頂きました。
ありがとうございます。
「こういう場面で困ってる」
「こういう時って、どう交渉したらいいですか?」
という質問も、末尾のメッセージフォームでどしどし送って下さい!
▼参考文献
▼これまでご紹介した基本事項と記事一覧はこちら。