【弁護士が教える、争わない交渉術#1】あなたが交渉術を身につける理由。
▼これから断続的に、「交渉術」について書きます。
今回はその総論、本で言えば「まえがき」にあたるお話です。
▼「交渉」と聞いて、どういうことをイメージされますか?
多くの方がイメージするのは、「ビジネス」「争い」「勝負」「衝突」、そういったものではないでしょうか?
そういうイメージを前提にすれば、「自分には交渉は関係ないなぁ」と思いますよね。
だけど、ちょっと待って下さい。
あなたは既に、毎日のように交渉をしています。
ですから、交渉術を身につけることは、大切なことなんです。
▼では、「交渉」とは一体何でしょう?
辞書を引くと、
相手と取り決めるために話し合うこと(広辞苑第六版)。
▼普通の会話と違う点が2つあります。
①双方の望むものが(少なくとも表面上は)違うということ。
→だからこそ話し合いが必要。
②自分の望むものを得たいということ。
→「相手を打ち負かしてまで得たくはありません」みたいな話は置いておいて、望むものを得たいという欲求自体はあるはず。
▼このように、交渉とは、
「双方の望むものが違うけれど、自分の望むものを得たいという前提の下で、相手と取り決めるために話し合うこと」
「話し合うこと」ですから、一方的に指示・命令して、自分の望むものを得るということではありません。
▼これでもまだ「交渉」を身近に感じられないかもしれません。
では、質問します。
①あなたには、望むものはありますか?→Yes/No
ex)商品やサービスを売りたい/好きな人と付き合いたい/会社に業務改善を求めたい/有給取りたい/親に進学を認めてもらいたい/パートナーに転職を理解してもらいたい/この会社に就職したい/家電を値引きして欲しい...etc
②それを得る過程で、誰かの了解や納得が必要ですか?→Yes/No
▼どちらもYesだったなら、そこには交渉が必要です。
実は、望むものを得る手段としていくつか方法があって、その一つが交渉なのではありません。
望むものを得るために相手の了解や納得を得ようとする。
その行為が交渉そのものです。
▼振り返ってみると、望むものを得るために相手(同僚、上司、パートナー、親など)の了解や納得を得ようとしていますよね?
それが立派な交渉なんです。
▼いかがでしょうか?
交渉は、実は身近に存在するんだと思っていただけたでしょうか?
そしてあなたはこれまで、幾度と無く交渉を繰り返してきたはずです。
それを交渉だと意識していなかったかもしれませんが。
▼望むものを得たければ、避けては通れない交渉。
そこで使うのが、「交渉術」です。
▼「交渉術」と聞いて、どういうことをイメージされますか?
・巧みな話術を使って相手を論破?
・緻密な心理戦術を使って相手を誘導?
確かにそういう交渉術もあるでしょう。
▼では、質問します。
あなたが望むものを得るために、
①相手との対立は避けたいですか?→Yes/No
②誰かを犠牲にして自分だけ望むものを手に入れることは避けたいですか?
→Yes/No
③誰かを敵に回すことは避けたいですか?→Yes/No
▼あなたがもし全てYesだったとしたら、あなたは、
「望むものは得たいけど、争いたくない!」
換言すれば、
「争わずに、望むものを得たい!」。
そう思っているのではないでしょうか。
何を隠そう、僕はそう思っています。
▼あなたがもしそう思っているのであれば、僕がご紹介する「争わない交渉術」がお役に立てるかもしれません。
▼交渉術の本を読むと、
「あなたの身近にも交渉する場面はたくさんあります。だから、誰にとっても交渉術は必要です」
と書かれています。
これは僕が先ほどお話したことと結論は同じ。
▼ところが、本を読み進めると、ビジネスにおける契約交渉や、弁護士が実際に扱った事件の話など、ちょっと身近に感じにくい話を題材に解説されていることがあります。
数百万円、数千万円規模の契約交渉を題材に解説された上で、「これは日常でも使えます」と言われても、なかなか自分に当てはめるのが難しかったりするわけです。
▼「交渉」と一括りにしても、様々な種類があります。
ですから、「どういう人が、どういう人を相手に、どういうシーンで、どういうものを得たいのか?」によって、用いるべき交渉術や解説の仕方があると思います。
▼そこで僕は、ビジネス交渉術ではなく、
・誰もが
・身近な人に対して
・日常のワンシーンの中で
・金銭などの経済的メリットよりもむしろ人生を豊かにするようなものを得たい場合(良い人間関係や職場環境等)
に使える交渉術をご紹介します。
▼さらにその交渉術が想定しているのは、
・相手と対立したくない
・誰かを犠牲にして自分だけ望むものを手に入れるのは嫌だ
・誰かを敵に回したくない
・それでも望むものを手に入れたい。
名づけて「争わない交渉術」です。
▼あなたが望むものが必ず得られる交渉術ではありません。
そもそもそのような交渉術は、ありません。
結果が出るかどうかはケースバイケースです。
ただ、
・相手と争わずに自分が望むものを得る可能性を高める。
・得られたはずのものが、交渉の仕方がまずかったばかりに得られないという事態を回避する。
・もっと早く得られたかもしれないのに、交渉の仕方がまずかったばかりに時間を要したという事態を回避する。
そういう交渉術です。
▼ここで話題を変えます。
ここからは、「なぜ僕が交渉術を語るのか?」をご説明します。
▼弁護士として8年目に入りました。
これまで依頼を受けた案件を数えてみたら、数百件に上りました。
訴訟、調停、労働審判、示談、契約交渉、刑事弁護、色々あります。
法律相談だけで終わった案件も含めると、更に数は増えます。
▼弁護士の仕事は、一体何か?
簡単に言うと、
「法律家として、依頼者の希望を可能な限り叶えること」
だと考えています。
▼どうやって叶えるか?
分かりやすいのは、「代理人」になって、依頼者の代わりに希望を叶えます。
例えば、「貸したお金が返ってこない」というトラブルなら、代理人になって借り主へ請求をします。
場合によっては裁判をして、返してもらえるように尽力します。
▼ただし、「弁護士法」には、弁護士の使命としてこういう規定があります。
第一条 弁護士は、基本的人権を擁護し、社会正義を実現することを使命とする。
ですから、「依頼者の希望を可能な限り叶える」とは言っても、
● 不当・不正な希望(例えば人を騙してお金を取りたい)に手を貸すことはできません。
● 不当・不正な手段(例えば、貸したお金を回収するために脅しを使ったり)を使うこともできません。
▼弁護士に依頼する時点で、既に当事者双方の望むものが違うことは明らかになっています。
そして、依頼者は、望むものを得たいと思っておられます。
その前提の下で、僕は、依頼者の代理人として、相手と取り決めるために話し合いをします。
そう、正に交渉です。
▼交渉相手は、相手方(お金の貸し借りで言えば借主本人)だけとは限りません。
相手方に弁護士が付けば、その弁護士が交渉相手となります。
交通事故で、相手方が保険に入っていれば、保険会社が交渉相手になります。
裁判になれば、裁判官が交渉相手になります(正確には交渉とは少し違いますが、判決を書くのは裁判官ですから、裁判官の了解・納得を得るという意味では広い意味で交渉と言えます。)。
他にも、事案次第で様々な交渉相手がいます。
▼このように、弁護士にとって交渉は日常茶飯事です。
しかも、弁護士の手を借りる程ですから、「自分では手に負えない状況」で弁護士にバトンが渡されることが少なくありません。
弁護士は、そういう交渉を日常的に行っています。
その中で、色んな交渉術の本も読みましたし、実際の事件を通じて培った交渉術もあります。
▼これから「争わない交渉術」をご紹介しますが、弁護士業務では、そうは言ってられません。
依頼者の希望を叶えるために、全面的に争うことが多いです。
特に裁判になれば、こちらに有利な判決を導くために、全面的に争います。
ただ、激しい争いをたくさん経験してきたからこそ、皆さんには、出来れば争わずに望むものを手に入れて欲しいと思うようになりました。
そういう思いから、「争わない交渉術」をご紹介します。
▼これまでご紹介した基本事項と記事一覧はこちら。