【弁護士が教える、争わない交渉術#18】「前、こう言ってましたよね?」を使う&使われたらどうするか?
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▼人には、一度自分の立場や意見を表明すると、その後はそれに矛盾する言動を回避しようとする性質、つまり、一貫した言動をしようとする性質があります(一貫性の法則)。
▼そこには、
「一貫していることは良いこと」
「一貫していないことは悪いこと」
という一般的な考えが影響しています。
政治家の発言を責める時も、「ブレている」「矛盾している」ということがよく材料になりますね。
▼この一貫性の法則を使って、交渉相手の納得を引き出しましょう。
例えば上司のAさんに対して、新しい企画の提案をする時。
Aさんの性格からして、その企画には難色を示しそうな予感があります。
そういうときは・・・
あなた「こういう企画を考えたんですが、いかがでしょうか?」
上司「う~ん。今の時代、新しいことをやってうまくいくか分からないし、ちょっと様子見たほうが良いんじゃないか?」
あなた「うまくいくかどうか分からないというのは仰るとおりですが、Aさんはいつも、『若い時はチャレンジしなさい。成功よりも失敗から学ぶものの方が多い!』と言って僕達を励ましてくれていますよね。その言葉に勇気づけられて、今回チャレンジしようと思ったんです」
という感じでしょうか。
▼こう言われると上司としては、少なくとも「上手くいくかどうか分からないからダメ」とは言えませんよね。
もちろんそれを封じても即OKとはならないでしょうが、よくある、「ぼんやりとした理由で却下」みたいな事態は避けられます。
上司からちゃんとした理由が聞ければ、そこをフォローして再提案すれば良いわけです。
▼注意しなければならないのは、記者が政治家を追求するみたいに、「Aさんはいつも、『若い時はチャレンジしなさい』と言うじゃないですか!」という風に追い詰めないことです。
これをされたら、一貫性の法則どころか、腹が立ってしまうでしょう。
一貫性の法則は、あくまでも相手が理性的である時に効果を発揮すると思います。
なぜなら、一貫していることが良いことだという理性的判断が根底にあるからです。
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相手が一貫性の法則を使ってきたら!?
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▼では逆に、相手があなたに一貫性の法則を使って、「以前にこう言っていたじゃないですか」と言ってきたら、どうしましょうか?
▼まずは、以前に表明した立場や意見は一旦横に置いて、「今の状況で最良の判断は何か?」を考えます。
つまり、一貫性の法則の影響を受けない判断をします。
その結果下した判断が、以前に表明した立場や意見と(表面上は)矛盾する時の反論の仕方を3つ挙げます。
▼①以前とは状況(前提)が違うことを強調する。
同じ状況なのに別の対応をすれば確かに矛盾していますが、状況が変われば判断が変わるのは当然のことです。
先ほどの上司で言えば、
「チャレンジしなさいと言っていたのは、業績が良かったときだろう?最近の業績を知っているか?前年比マイナス30%だぞ?」
この反論内容の是非はさておき、「以前とは状況(前提)が違うことを強調する」というのは、こういうことです。
▼②以前表明した立場や意見に限定を加え、今回は適用できないと反論する。
先ほどの上司で言えば、
「確かにチャレンジしなさいとは常々言っているけれども、リスクを限りなくゼロに近づける努力をした上でチャレンジしなさいということだ。
無謀なチャレンジで失敗すれば、また同じ失敗をする。
だから、キミの提案では、『チャレンジしなさい』というのは当てはまらないよ」
という風に。
抽象的に見れば矛盾しているように見えても、限定を加えて具体的にしてみると、全然矛盾していないことはよくあります。
▼③相手の解釈が間違っていることを指摘する。
②と似ていますが、「あなたは以前こう言っていた」と言ってきた時の「こう言っていた」と指摘する内容は、実は、相手が都合の良いように解釈している場合も少なくありません。
あるいは、相手が都合の良い部分だけ切り取っている場合もあります。
そういう時は、「そういう意味で言ったわけではありません」と冷静に反論しましょう。
言ったかどうか記憶が定かで無い時は、「言ったかもしれない」と弱気にならず、「仮に言葉上はそういうことを言っていたとしても、そういう意味で言ったわけではない」と冷静に反論しましょう。